競業避止義務とは、企業の経営者等が、他の者と営業上、競争的な性質を伴う行為をしてはならないという義務を指します。
M&Aにおいては、売り手企業がM&A後に同一の事業を実施することで買い手企業が損失を被るリスクを避けるため、契約に盛り込まれます。
- 競業避止義務の解説
- 裁判事例
- 競業避止義務に関する注意点
競業避止義務の解説
売り手企業は、売却事業におけるノウハウや技術を蓄積しています。
そのため、M&Aの成約後に、有利な立場にある売り手企業が再度同一の事業を始めると、買い手企業が事業を拡大させるのが困難になる可能性があります。
このような事態を防ぐため、禁止事項として契約に盛り込まれるのが競業避止義務です。
当事者間で、一定の制限期間を設けるのが一般的です。
ただし、事業譲渡の手法を採る場合は、同一の市町村もしくは隣接する市町村の区域内では20年間同一事業を行ってはいけないと規定されています。
競業避止義務は企業間だけではなく、企業と従業員・取締役との間でも締結されます。
雇用契約を結ぶ際、従業員は自社に対し損害を与えるような行為を行うことを禁止されるのが一般的です。
また、取締役が、自らが所属している企業と類似する営業を行う際は、取締役会からの承認が必要であることも規定されています。
裁判事例
被告会社はファッションサイト関係の事業を原告に譲った後、新たに競合サイトを立ち上げていました。
当事者間で競業避止義務に関する取り決めはありませんでしたが、裁判所は会社法に基づき、被告に損害賠償を命じました。
この事例から、裁判へと発展する事態を防ぐためにも、競業避止義務を明確に規定しておくことが重要だと言えます。
競業避止義務に関する注意点
退職後の効力は制限される
競業避止義務は、憲法に定められている職業選択の自由との兼ね合いが難しく、トラブルが発生しやすい傾向があります。
競業避止義務についての条項を明確に設定することで一定の効力を持たせることは可能です。
ただし、従業員や取締役の権利を侵害しない程度であることは必須であり、退職後に効力が及ぶ期間は1~3年程度です。
要点のおさらい
- 競業避止義務とは、自社の利益を損ねる可能性の高い行為を禁止するものであり、M&Aにおいては、買い手企業の利益を保護するために盛り込まれます。
- 契約の中に競業避止義務が規定されていなかった場合でも損害賠償が認められたケースがあります。
- 従業員や取締役には職業選択の自由があるため、退職後の効力は制限されます。