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M&Aコラム

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病院や診療所のM&A丨医療業界でM&Aを検討するときに押さえたいポイントとは

後継者の不在や病院間の競争激化によって、経営難に陥る医療法人が増加している昨今。
医療業界でのM&Aが散見されるようになりました。
M&Aは、淘汰されゆく病院や医療機関の生存戦略としても注目を集めています。

この記事では、医療業界の動向やM&Aが注目される理由、M&Aを行うメリットなどを分かりやすく解説しているので、ぜひ10分ほどお付き合いください。

医療業界の動向について

編集部まずは、医療業界の動向について見ていきましょう。
医療業界の動向として特筆すべき点は、大きく以下の3点です

  • 利益率が低下している
  • 深刻な人材不足に直面している
  • 環境や設備の問題が顕在化している

それぞれ詳しく見ていきましょう。

利益率が低下している

医療業界が抱える課題の一つが「利益率の低下」です。
原因として考えられるのは、医療法人の収益源となっている「診療報酬」の減少と、薬価のマイナス改定と言われています。

社会保障費が増大している一方で診療報酬は減少している

医療法人が受け取る収益の7割は、公費を財源とした医療費です。
もう3割はいわゆる自己負担分となり、患者さん本人が支払う費用となります。

また、こうした医療行為に対して支払われる金額は、常に一定というわけではありません。

2年に1度のスパンで改定され、政府が定めた改定率をもとに中央社会保険医療協議会で審議を重ねたうえで、最終的な診療報酬が確定します。

医療業界はその特性上、収益額が診療報酬に依存するのです。しかし、診療報酬の抑え込みが続いていることから、地方を中心に経営難に陥る病院が増加しています。

薬価がマイナス改定されることで利益が圧迫されている

医療法人の収益を左右する要素は診療報酬だけではありません。
全国一律で定められる医薬品の価格、薬価も含まれます。

薬価は診療報酬が改定されるタイミングに合わせて一緒に改定されます。診療報酬と同様に「公定価格」という形をとってはいますが、実態は自由な価格競争が行われているのが特徴です。あくまで公定価格となっているのは「患者へ手渡される際の費用」だけなので、そこに至るまでの販路では自由に価格の取り決めがなされます。

薬局や医療法人は公定価格をもとに、基準となる薬価を定めます。その薬価でひとまず製薬会社や卸業者に請求を行いますが、製薬会社や卸業者側は、市場の競争に打ち勝つためにそれより安い価格で販売することになります。

ここでなるべく安く医薬品を仕入れることが、医療業界で収益を獲得する一つの手段です。

つまり、薬局や医療法人が患者へ手渡す際の価格は一律で定められているため、「販売価格を上げる」という方法は取れません。一方、医薬品をいくらで仕入れるかは自由なので「薬価を安く抑える」ことで、「薬価差益」という利益を生み出せるのです。

しかし、この薬価についても改定によって年々公定価格が低下してきています。つまり、患者へ手渡す際の価格が低下しているので、医療法人にとっては「薬価が下がることで薬価差益が減少している」とも言えるでしょう。

これらの理由によって、医療業界では利益の圧迫が続いており、地方の小さな診療所など利益を生み出しにくい規模・地域の病院を中心に深刻な経営難に陥っていると考えられます。

深刻な人材不足に直面している

医療業界では長年、深刻な人材不足が取りざたされてきました。その理由を大きく3つに絞って紹介していきます。

専門的なスキルを保有した人材が確保しにくい

そもそも医療業界に従事する場合は、様々な専門資格が必要になります。医師や看護師、薬剤師といった難関の国家資格を筆頭に、事務として働く際にも医療事務などの資格が必要になるので、そもそも従事する際のハードルが他の産業に比べて高いと言えるでしょう。

加えて、その後も実務で学ぶことが非常に多く、人の生命に関わる業務の最前線に立つことから大きな心労がかかってしまうことも懸念されます。

人材の獲得はもちろん喫緊の課題ではありますが、人材が長く働けるようにチームワークの良い職場環境を構築し、人材の定着に努めることも重要であると言えるでしょう。

地方の必要医師倍率は依然として高い水準に

平成30年に厚生労働省が発表した医師偏在対策についてでは、地方と都市部での医師の偏在はより深刻なものになっている、と発表されています。

指標となるのは「人口10万対医師数」 というキーワード。10万人の人口の中に医師は何人存在しているのか、という基準で算出したものです。

2008年から2014年にかけての6年間で、人口10万対医師数は212.32人から233.56人へと増加していますが、医師数の増減には大きな地域差が開いています。

以下のグラフは人口10万対医師数について、地域ごとにどのような変化があったのかを表したものです。「減少」「10%未満の増加」「10%以上の増加」のいずれかに分類していますが、大都市医療圏に比べて過疎地域医療圏では減少の割合が大きく、医師数に大きな開きがあることが分かります。


こうした状況を改善すべく、地方へ医師を誘致するための施策が考案されている状態です。

高齢化によって患者数は増加傾向に

高齢化を主な原因として、わが国では年々患者数が増加していることが分かっています。以下のグラフを見てもわかる通り、細かな増減を繰り返しつつも、全体的には右肩上がりで患者数が増加しているのです。


今後のさらなる高齢化を見越して、患者数は増加していくと予想されています。先述した地方との医師偏在問題も併せて考えると、医師数の不足や医療崩壊といった様々なリスクが懸念されるでしょう。

これらの理由によって、医療業界の人材不足は解消しにくく、何らかの抜本的な改革が行われるまでは全体的な改善は見込めないと考えられます。

数年以内に見込まれる建物の大規模修繕

病院や診療所の動向としては、環境や設備の問題が顕在化していることが上げられます。1985年の第一次医療法改正によって病床の総量規制がかかりましたが、その直前に多くの医療法人が駆け込むように病院を設立しました。

40年弱が経過した現在、それらの病院は医療設備や建物の老朽化が進んでおり、大規模な修繕を行う時期に差し掛かっています。しかし、都市部の土地不足や建設コストの増加によって修繕のハードルは非常に高くなっており、先述した利益の圧迫も理由となって修繕に踏み切れない医療機関が増加しているのです。

病院も選ばれる時代になり競争激化

2014年に施行された医療介護総合確保推進法によって、医療業界の競争が激化したことについても、ここで触れておきましょう。

医療介護総合確保推進法の内容としては、大きく「地域包括ケアシステムを構築すること」が掲げられており、その一環として「医療機関が病床の医療機能を都道府県に報告し、都道府県がその情報をもとに医療提供体制のビジョンを策定する」よう定められています。

医療機能とは「急性期」「回復期」「慢性期」の3つに大別される、患者の状況に合わせて提供する医療体制を表したものです。

結果として、病床の医療機能を複数兼ね備えた病院が増加し、競争が激化したと見られています。

例えば「急性期」に対応したA病院は、患者が回復したのちに「回復期」に対応するB病院へ患者を紹介する、という流れがありましたが、A病院がリハビリ病棟を併設して急性期にも回復期にも対応できるようになってしまうと、B病院は患者の流入が途絶えてしまい、経営難に陥ります。

そのためB病院も急性期に対応できる病棟を設立し、A病院と患者を奪い合うライバル関係へ発展していく、というように、病院間の関係性が協力関係からライバル関係へ変化する流れが強まっていったのです。

医療業界でM&Aが注目されている理由とは

編集部介護や福祉といった、医療と同様の課題に直面している分野でもM&Aは注目されており、医療業界でもM&Aを活用して活路を見出すことが期待されています

関連記事:介護・福祉領域に強いM&A仲介会社とは?チェックポイントを公開!

編集部ここからは、医療業界でM&Aが期待されている理由について、具体的に解説していきます

後継者不在の病院が事業承継を行うため

医療業界では深刻な人材不足に加えて、後継者不在も大きな課題となっています。医療法人の代表である理事や理事長も、一般の企業と同様に高齢化が進んでおり、事業承継のタイミングを迎えています。

事業承継には大きく「親族内承継」「親族外承継」「第三者承継」という3つの手法が存在しますが、親族内に事業を承継できる人材がいない場合は、従業員や他の理事などの人材に引き継ぐ「親族外承継」か、外部の医療法人や企業とM&Aを行い経営権を譲渡する「第三者承継」に分かれます。

地域の医療体制を維持するためにも、医療法人の事業承継は欠かせません。

親族が医師の場合でも病院を継がないケースの増加

先述した「親族内承継」に関連して、近年は親族が医師の場合でも病院を継がないケースが増加しています。理由として考えられるのは、医療業界が抱える課題や展望に対しての不安感が挙げられるでしょう。

診療報酬・薬価の改定による利益の圧迫や、政府が掲げる地域包括ケアシステムの実現に向けた「9万床の削減発表」など、先行きに不安を感じさせる話題が多く上るなかで、事業承継を行いたいと考える親族が減少してしまったことも理由の一つと考えられます。

医療行為や研究に専念するため

医療行為や医学の研究に専念したいと考える医師の方も少なくはありません。医療法人を束ねる立場になってしまうと、医療行為や研究に割く時間は減少し、法人の経営やマネジメントに能力を使わなければなりません。

医療行為に従事したい方は勤務医のほうが自身のやりがいにつながりますし、「経営は他者に委ねて研究に没頭したい」という方もいらっしゃるでしょう。

M&Aによって資金力やマネジメント力のある人材へ経営を委ねることで、それらの実現が叶うことも、M&Aが注目されている理由のひとつです。

個人保証を引き継ぐのを避けるため

医療法人だけでなく、経営者には「個人保証」という重責がのしかかります。法人の借入金について、連帯保証を背負うことを指しますが、医療法人の場合は設備や建物、その他の費用についても高額になりやすく、その連帯保証を背負うとなれば、相応の覚悟が必要になるでしょう。

こうした重責が原因となって、M&Aによって医療法人を引き継ぎたいと考えている他者へ経営権を譲渡しようと考える方も少なくはありません。

専門的なスキルを有した人材の確保

M&Aに臨むことで、他の医療法人の経営資源が手に入ります。つまり、その医療法人が抱える人材も併せて獲得できるので、専門的なスキルを有した人材が確保できるのです。

人材の確保を目的としたM&Aも他業種では多く散見されており、医療業界においても大きなメリットであることは間違いありません。

事業規模の維持や拡大を目指すため

今後はますます病院が淘汰されていくと予想されており、M&Aによる統廃合は加速すると見られます。先述した地域包括ケアシステムの実現に向かうということは、一つの病院に様々な機能が集約され、大きな一つの組織に収束していくということです。

その流れに沿うように医療法人が医療法人を獲得することで、事業規模の拡大が見込めます。また、異業種の企業が医療法人を獲得する場合も、同様に新規参入のハードルを下げつつ、新たな事業を獲得できるのです。

このタイミングでM&Aに臨むことで、規模の拡大や患者数の増加、医師や看護師といった専門資格の保有者を獲得することにもつながります。業界内での勢力を強めるという意味でも、M&Aに取り組む意義は大きいと言えるでしょう。

医療業界でM&Aを行った事例を紹介

医療法人オーナーM&Aを行うことで様々なメリットが生まれるんだね。
そして、M&Aに成功すれば、抱えている課題が一挙に解決する可能性があるわけだ。

編集部おっしゃる通りです。
ここからは、M&Aの実現に向けてより具体的な論点についてご紹介します。
まずは、医療業界でM&Aを行った事例について、見ていきましょう

沖縄徳洲会と湯池会のM&A

深刻な医師不足に陥っている沖縄県で、2018年に沖縄徳洲会と湯地会が経営統合を行っています。

もともと、沖縄に籍を置く中部徳洲会と医療法人湯地会の北谷病院は良好な関係を築いていました。北谷病院のスタッフの高齢化や後継者問題が取りざたされるなか、中部徳洲会病院の新築移転のタイミングが到来し、両病院の物理的な距離がさらに接近します。

地域医療の維持・発展のためにそのタイミングで経営統合を行うことについて、両法人の理事が2年のあいだ協議を重ねた結果、2017年8月に合意がなされ、2018年には吸収合併へと至っています。

このM&Aによって、医薬品の共同仕入れや病院運営に関するシステムの統一を行い、さらなるコスト削減や業務効率化といったシナジー効果が期待されます。

参考:中部徳洲会

セコム株式会社と倉本記念病院のM&A

異業種であるセコム株式会社と倉本記念病院の間でも、2014年にM&Aが行われています。

倉本記念病院は千葉県に籍を置く病院で、経営難により破産手続きを行っていたところ、セコム株式会社が医療業界への進出を目指して買収を行います。本事例は土地と建物を譲受する「事業譲渡」というスキームで行われました。

また、当初は「セコム千葉病院」という名称で開業する予定でしたが、企業名を入れることについて医師会が反対。現在は「セコメディック病院」という名称で運営されています。

こうした異業種からの参入も散見されるのが医療業界の特徴と言えるでしょう。

医療法人水の木会と医療法人社団葵会のM&A

2018年には、九州と本州をつなぐ境目、下関市の医療インフラを担ってきた江藤病院がM&Aを行いました。江藤病院は、長く医療法人水の木会が運営してきた病院で、同法人は他にも山口と北九州を中心に病院や介護老人施設の経営を行っています。

一方の医療法人社団葵会は、関東を中心として全国各地に病院や介護老人施設、ホテルなど130にも上る施設を保有している、大規模な医療法人です。

今回のM&Aでは、いまだに九州に進出できていない葵会が”九州へ進出するための足がかり”として事業を譲受した可能性があります。

地方の病院やクリニックは経営難に陥りやすく、設備や建物の修繕にも頭を悩ませています。そのため、今回の事例のように、存在感の強い都市部の医療法人が、遠く離れた土地の病院やクリニックをM&Aによって取得していく流れは強まっていくでしょう。

参考:江藤病院事業の譲渡に関するお知らせ

医療業界でM&Aを行う際に気をつけたいポイントとは

医療法人オーナー一口にM&Aと言っても様々な方法やメリット、目的が存在するんだね。
具体的にM&Aに取り組む際に気を付けるべきポイントはあるのかな?

編集部通常の企業とは異なり、株式の移転によるM&Aは行えなかったり、病院ならではの問題が存在したりするので、それらに気を付けたいですね

医療業界のM&Aのポイント一般企業のM&Aとは異なる点が多い
 -開設主体によってM&Aの手続きは異なる
 -意思決定権を掌握するための手法を押さえておく
過去の訴訟や地主との関わりなどの問題に注意

詳しく見ていきましょう。

一般企業のM&Aとは異なる点が多い

医療法人は一般企業と異なる点が存在するので、M&Aのスキームが変わってくることにも注意しなければなりません。具体的には「開設主体によってM&Aの手続きは異なる」という点と、「意思決定権を掌握するための手法を抑えておく」ことの2点に注意しましょう。

開設主体によってM&Aの手続きが異なる

医療法人には「開設主体」というものが存在します。一口に医療法人と言っても、大きく「社団医療法人」と「財団医療法人」に大別され、社団医療法人の中には持分の定めがあるものとないものが存在するのです。

ほとんどは持分の定めがある医療法人なので、ここでは持分の定めがある医療法人に絞ってご紹介します。

持分とは、正式には「出資持分」と呼ばれ、病院の設立時に社員となるメンバーが出資したお金のことを指します。株式会社でいうところの「株式」と同じような意味合いを持ち、譲渡、相続できるのがポイントです。

医療法人のM&Aでは、この出資持分を第三者(医療法人を獲得する方)が獲得して経営権を手にする方法が一般的です。

しかし、それだけでは意思決定機関である社員総会での議決権が獲得できません。そこで、次に紹介するような手法を理解しておくと良いでしょう。

意思決定権を掌握するための手法を押さえておく

一般的な株式会社では、経営権を得るためには51%以上の株式を保有している必要があります。これは、過半数の株式を取得していれば最高意思決定機関である株主総会での議決権を獲得できるためです。

しかし、医療法人の場合は最高意思決定機関が社員総会なので、株式代わりに出資持分を保有しているだけでは議決権を獲得できません。つまり、経営権を手に入れられないのです。加えて、社員総会の議決権は「1個人に1つ与えられる」ので、法人は社員総会の議決権を獲得できません。

そのため、先述した出資持分の獲得に加えて、社員総会の議決権を獲得しなければ、経営権を確立できないのです。社員総会の議決権を獲得するためには、大きく「デッドアプローチ」と「エクイティアプローチ」という2つの手法が考えられます。

デッドアプローチデッド(債務)によって病院の経営をコントロールする手法です。代表的な例としては、M&Aによって病院を譲受する側が、病院の建っている土地や建物そのものを買収し、間接的に経営をコントロールする方法でしょう。

エクイティアプローチエクイティ(資本)によって経営をコントロールする手法を指します。そもそも、医療法人の代表者である理事長には医師免許が必要なので、譲受側の代表者がそのまま医療法人の理事長も兼任するのは難しいと言えます。


そこで、譲受側企業の社員を医療法人の社員として組み込み、まずは社員総会の議決権を獲得します。そこで理事を3名以上選出し、理事会を結成。次に理事会で理事長となる人物を選任して、意思決定機関をコントロールする手法が考えられます。

過去の訴訟や地主との関わりなど特有の問題に注意する

病院ならではのポイントとして、過去の訴訟問題の有無や、地主との関わりについても把握してくとリスクなくM&Aを進められます。

医療法人のM&Aを検討する際には、過去の経歴についてもしっかりと下調べをしてから検討を行うようにしましょう。

M&Aを活用して医療業界での生き残りを目指す

医療法人オーナーM&Aによって様々な課題が解決することが分かったよ、ありがとう

編集部お役に立てて何よりです。
人材不足や利益の圧迫といった喫緊の課題をM&Aを通して解決できるかもしれません。
何か分からないことや、不安に感じることがあれば、お気軽に弊社の無料相談をご利用ください

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