バイアウト(Buy out)とは、日本語に訳すと買収です。
バイアウトの手法ごとに図解や事例を用いながら基礎から解説していきます。
バイアウトの基礎
バイアウトは、買収のことであり、対象会社の株式の過半数を取得する取引です。過半数の取得を目的としない場合は、バイアウトの範囲ではありません。
バイアウトの手法
バイアウトには、以下のとおり3つの手法があります。- MBO(マネジメント・バイアウト)
- EBO(エンプロイー・バイアウト)
- LBO(レバレッジド・バイアウト)
それぞれカンタンに見ていきましょう。
MBO
MBOとは、Management Buyoutの略で、会社経営陣が株式の過半数を取得し、オーナー経営者として独立することです。以下の図のとおり、MBOを実施することにより、株主と経営者が別々だったところを、一緒にすることができます。
最もシンプルなMBOの形は以下のとおりです。経営陣がそのままオーナー株主にもなっていることが分かります。
EBO
EBOとは、Employee Buyoutの略で、会社の従業員が株式の過半数を取得し、経営権を取得することです。MBOとの違いは株式を取得するのが、「会社経営陣」か「従業員」かの違いです。従業員が経営権を取得後、自らが会社経営陣になることができます。
EBOを実施し、旧経営陣は退陣し従業員が経営陣になる時、以下の図のような株主・役員・従業員の構成となります。
LBO
LBOとは、Leveraged Buyoutの略で、対象会社の資産やキャッシュフローを担保に資金調達を行い買収する手法です。MBOやLBOは買収者が異なっていましたが、LBOは買収の資金調達方法に違いがあります。LBOの場合、買収者は経営陣、従業員、第三者、企業など限定されません。
B社がA社の資産、キャッシュフローを担保に金融機関や投資家から借入を行い、A社を買収すると以下の図のような取引となります。
イグジット手段としてのIPOとバイアウト
起業家やベンチャーキャピタルは自らの資金を投資していますが、イグジット手段として、IPO(株式上場)とバイアウトの2パターンに分かれます。起業家は基本的にはIPOを目指すことになりますが、IPOできる会社は一握りです。2020年にIPOできた会社はわずか93社しかありません。
そのため、IPOできなかった会社はバイアウトによるエグジットを行うか、事業継続するか、倒産してしまうことになります。
一方、バイアウトしてしまうとIPOできなくなるわけではありません。一度、バイアウトされた後、再びIPOを目指すことも可能です。
起業した場合のエグジット手段をまとめると以下のようになります。
バイアウトファンドとは
バイアウトファンドとは、バイアウトの手法を用いて経営権を取得した後、経営に深く関与することによりバリューアップさせ、高値で売却することを目的とするファンドです。主なバイアウトファンドは以下のとおりです。
- カーライル・グループ
- ベインキャピタル
- リサ・パートナーズ
- ジェイウィルパートナーズ
- ローンスター・グループ
- ユニゾンキャピタル
- アドバンテッジパートナーズ
読者バイアウトファンドと聞くとハゲタカをイメージしますが、同じものでしょうか?
編集部ハゲタカは日本企業を割安で買収し、資産を切り売りすることで売却益を得る行為です。
バイアウトファンドは買収後、自らが経営に携わりバリューアップを行い、より高値で売却することが基本的なビジネスモデルです。
もちろん、一部資産の切り売りを行うことはありますが、バイアウトファンドとハゲタカとは違うと言って良いでしょう。
MBOのくわしい解説
この章ではMBO(マネジメント・バイアウト)についての詳細を解説していきます。MBOのメリット・デメリット
MBOのメリットは以下のとおりです。・所有と経営を一致させることで意思決定が迅速化する
・オーナー経営者のモチベーションが上がる
MBOのデメリットは以下のとおりです。
・経営陣が資金を別途用意する必要がある
・株主が多い場合、交渉が難航する可能性がある
読者所有と経営を一致させるとはどのような意味でしょうか?
編集部例えば、大手銀行の株主は多数の少数株主が集まっており、特定の大株主はいません。頭取はオーナー経営者ではなく、株主と経営者が異なっていることが分かります。
この場合、株主の意向と経営陣の意向が異なった場合、経営陣が本当に良いと思った事業戦略が実行できないことが起こりえます。
例えば、大規模な組織再編などが挙げられます。
そこで、株主と経営陣を一致させる、つまり、所有と経営を一致することで、経営のスピードを上げることができます。
MBOは意思決定のスピードを高めることにより、企業価値を最大化させることが最終的な目的です。
MBOの進め方
MBOは、主に以下のように進められます。通常、経営陣が買収資金を最初から持っていることはあまり想定されないため、金融機関やファンドなどの投資家から資金調達することを前提としています。
- 経営陣が自社を買収する目的の会社(SPC)を設立する
- SPCが金融機関やファンドなどの投資家から資金調達する
- SPCが自社を買収する
- SPCと自社が合併する
図にすると以下のとおりです。
SPCを活用することで、対象会社が借入を行っていることになり、経営陣は借入のリスクを負わない点が特徴です。
最終的に、対象会社の資産やキャッシュフローを担保に、金融機関や投資家から資金調達を行っていることが分かります。
MBOの留意点
MBOが成立するには、株式を買い取る相手先と金額条件が合意できるかどうかが最重要ポイントです。既存株主は、MBOに伴い全株売却することになるため、基本的には金額条件のみが重要になります。MBOの資金の出し手である金融機関からすると、割高な金額でMBOが実行されてしまっては、自らのリスクマネーが回収できる可能性が低くなります。
資金の出し手である金融機関や投資家と、売り手である既存株主をどのように調整するかが、MBOの一番難しいポイントです。
MBOの事例
MBOの事例は、上場企業と未上場企業のそれぞれにおいてよくありますが、上場企業の事例を一つ紹介します。MBOの事例として良く挙げられるのは、出版社で有名な幻冬舎のMBOです。
2010年、見城社長が代表を務めるTKホールディングスが幻冬舎に対して約60億円のTOBを成立させました。
TOB価格は市場価格にプレミアムを乗っけた水準でしたが、一株あたり純資産価格よりも低くPBRが1倍を切る水準であったため、価格に対して不満を持つ株主もいました。
オーナー社長がIPOにより多数の株主に株を放出しましたが、最終的にはMBOにより株式を全て買い戻した格好になります。
出典: 日本経済新聞
読者結局、幻冬舎のMBOは結局成功したのでしょうか?
編集部幻冬舎の現在の売上高等は、上場廃止に伴い開示されておらず、定量的には結論を言うことはできません。
一方、出版業界が不況の中、インターネットをうまく活用し、生き残っているところを見るとMBOが成功したと言えるのではないでしょうか。
EBOのくわしい解説
続いてEBO(エンプロイー・バイアウト)についての詳細を解説していきます。MBOとEBOは似ている部分が多いため、EBOの特徴に焦点を当てて見ていきましょう。
EBOのメリット・デメリット
EBOのメリットは以下のとおりです。・オーナー経営者が引退する際に利用することができる
・第三者に事業を引き継がせるよりもスムーズに実行できる
EBOのデメリットは以下のとおりです。
・オーナーとなる従業員を決める際に、従業員同士で不公平感が生じるリスクがある
・従業員が十分な資金を持っていない場合、別途資金調達が必要となる
EBOの進め方
EBOの進め方は以下のとおりです。- 事業を引き継ぐべき従業員の見極め
- 従業員と秘密保持契約書の締結と条件交渉
- 株式譲渡契約の締結
- 必要がある場合、従業員の資金調達の手助け
- 株式譲渡実行
EBOの進め方で特徴的な点は、①と②のプロセスです。
オーナー経営者であるあなたが、事業を引き継ぐべき従業員と秘密保持契約を結び、機密情報の開示を行い、条件交渉をしなければなりません。
また、EBOは中小企業の引継ぎによく使われるスキームであるため、MBOよりもSPCを利用した資金調達を行うケースは少なくなります。
EBOの留意点
EBOの留意点は、以下のとおり3点あります。① 従業員との交渉リスク
EBOを行う際、いくらで株式を譲渡するのか交渉を行う必要があります。しかし、いつでも交渉がうまく行くとは限らず、情報の開示を行ったにも関わらず、交渉決裂のリスクはあります。
万が一、交渉決裂した場合には、組織崩壊が起きないよう慎重に対応しなければなりません。
② EBOの社内へのアナウンス方法とタイミング
EBOの発表は組織内に対して大きな影響を及ぼします。なぜ、自分には話してくれなかったのか、なぜあの人が事業を引き継ぐのか、といった不信感が生まれないように、EBOの社内へのアナウンス方法とタイミングは、慎重に検討する必要があります。
③ 親族に事業承継させる場合
自分の息子など親族に事業承継させる場合は、EBOでなく、生前贈与、相続といった別の方法もあります。EBO、生前贈与、相続のそれぞれにおいて、税制面が大きく異なっているため、税務面での検討も必要になります。
読者従業員といっても、部長、課長、平社員などあると思いますが、EBOの際、制限はありますか?
編集部いいえ、とくにありません。
取締役がEBOすることもできますし、平社員でも可能です。
ただし、いくら実力があるからと言って平社員がEBOする場合などは社内への影響は慎重に検討しなければなりません。
また、人数についても特段の制限はありません。
オーナー経営者から従業員3名へ株式を譲渡するといった形でも可能です。
ただし、EBO後の株式を分散させる場合は、事業引継ぎ後の経営が円滑に進むよう誰が何株保有するかの検討は必須です。
EBOの事例
未上場会社ではEBOはよくありますが、上場企業のEBOは2020年4月のユニゾホールディングスのEBOが初の事例です。一部従業員とローンスターが設立したチトセア投資により、ユニゾホールディングスに対して、総額約2,050億円のTOBが成立しています。
EBOの成立に伴い、従来の社長、会長、監査役、取締役の総勢43名が辞任・退任しています。EBOの後ろ盾となったローンスターから取締役1名が派遣されます。
出典: 株式会社チトセア投資による当社株券に対する公開買付けの結果並びに親会社、主要株主及び主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ
LBOのくわしい解説
MBO、EBOと同様にこの章ではLBO(レバレッジド・バイアウト)の詳細について解説していきます。LBOのメリット・デメリット
LBOのメリットは以下のとおりです。・少ない手元資金で買収することができる
・経営の利益効率を高められる可能性がある
LBOのデメリットは以下のとおりです。
・借入金が増加するため、自社の財務リスクが高まる
・資金調達に、金融機関や投資家との交渉が必要となる
読者LBOにより利益効率を高められるとはどのようなことでしょうか?
編集部例えば、手元資金0円、借入金1億円で1億円の買収をしたケースを考えましょう。
対象会社の毎年の利益(=キャッシュフロー)は1,000万円、借入金利息は5%とします。
すると、毎年、買収による利益は、1,000万円ー500万円=500万円となります。
手元資金なしで毎年500万円の利益を得られるので、自己資本利益率は向上し、利益効率が良くなる仕組みです。
ただし、買収した会社がきちんと利益を出せるかは分からず、倒産してしまえば借入金全額を負担する可能性もあります。
LBOはハイリスク・ハイリターンな手法と言えます。
LBOの進め方
LBOの進め方は「MBOの進め方」と同様です。 違いは買収者が経営陣でなくとも構わないという点です。図示に表すと以下のとおりです。
LBOの留意点
LBOを実施する際、資金調達の方法は主に以下の3つの種類があります。- デット(借入)
- メザニン
- エクイティ(資本)
メザニンとは、借入とエクイティの中間的な位置づけの調達方法です。 具体的には、劣後ローン、劣後債、優先株などが挙げられます。
仮にLBOによる買収が失敗し、残余財産を分配するとなった際、分配の優先順位は、デット>メザニン>エクイティとなります。
LBOに参加する投資家の需要に合わせて、資金調達方法を考えなければならない点がLBOの留意点です。
LBOの事例
LBOの事例として、日本国内で最も有名かつ、金額が大きいのがソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収、1兆7,500億円です。LBOを活用し、資金調達の内訳は以下のとおりです。
・借入1兆1,600億円
・メザニン(劣後ローン)1,000億円
・エクイティ2,000億円テキストを挿入
2006年当時、ソフトバンクの売上高は1兆円程度、売上高の2倍近い買収額となり、自己資金だけでは到底買収することのできない規模です。
LBOにより、各投資家からうまく資金調達することで、この大型買収を完了させています。
現在、ソフトバンクグループの一角として元ボーダフォン日本法人は、継続的かつ安定的にキャッシュフローを生み出しています。ソフトバンクとして社名変更し上場もしています。
リスクを大きく取った2006年のLBOによる買収は大成功だったと言えるでしょう。
参考:ニッセイ基礎研究所 「ソフトバンクグループの金融財務戦略」
バイアウトを成功させるために必要なこと
最後に、バイアウトを成功させるために必要なこととして2点解説していきます。- 自社の財務状況、企業価値への理解
- 企業価値の理解
自社の財務状況、企業価値の理解
MBO、EBO、LBOなどバイアウトを成功させるためには、自社の財務状況と企業価値の理解が必要不可欠です。① 自社の財務状況の理解
自社の財務状況が正確に分からない状態なのであれば、買い手も投資判断を行うことはできません。月次レベルで数字を追えるようにすることで、決算期だけでなく、現時点での財務状況を把握できるようになることが必要です。自社の財務状況を把握することで、事業計画や将来の見通しが正確に描けるようになります。
また、企業価値算定の参考になる正常収益力は、買い手ではなく売り手自身が深く理解しておくことが求められます。
② 企業価値の理解
自社の財務状況を把握できていれば、「企業価値」に関して最低限の理解をしておくことがお勧めです。 仮に何も知識がない状態で買い手とバイアウトの交渉を行ってしまうと、相場よりも極端に安い価格で売却してしまう恐れがあります。自社をバイアウトする場合は、どのくらいで売却できそうかは、経営者であるあなた自身が分かっていることで、交渉にも強くなります。
ただし、M&Aは相手があることであり、経済状況などマクロな情勢にもある程度左右されます。
自身の理想の価格にこだわりすぎてしまうと、バイアウト自体が達成できないリスクも高まる点は留意が必要です。
オーナー経営者企業価値の算定について理解するためには、具体的には何をするのがお勧めでしょうか。
編集部まずは基本的な知識を本やwebにて学ぶのが良いと思います。
DCF法については、以下の記事にて分かりやすく、詳細を解説していますのでご参照ください。
専門家への相談
バイアウトを成功させるためには、M&Aに詳しい信頼のできる専門家への相談が必要不可欠です。 バイアウトは、通常のM&Aと同様となりますが、以下のようにたくさんのプロセスを経て達成されるものです。バイアウトやM&Aの注意点として、どのプロセスでも一度失敗してしまえば、後戻りすることが難しいという点が挙げられます。
また、買い手だけでなく、弁護士、会計士、税理士といった専門家との調整も多く発生します。これらを一人の力で実現させるのは到底難しいため、あれこれ悩む必要はありません。信頼できるM&A専門家に相談することで、悩みの多くは解決できるはずです。
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