ただし、税金の存在を忘れてはいけません。
今回は子会社株式を売却する際に発生する税金とその対策について解説していきます。
子会社株式を売却する際に発生する税金と対策について
子会社株式売却時の税金
子会社株式を保有する会社を親会社と呼びます。
法人である親会社が第三者である法人に子会社株式を売却する一般的なケースを想定しています。
法人税が発生する
基本的には子会社株式を売却すると益金が発生して法人税がかかります。
消費税については、有価証券の譲渡は非課税取引に該当し発生しません。
(国税庁HP タックスアンサー No. 6201 非課税となる取引)
法人税の支払期限は、決算後2カ月(延長申請をしている場合は3カ月)以内です。
法人税率と税額の計算方法
話を単純にするために今期は子会社株式を1億円で売却する以外の取引はなかったと仮定します。
この時、損益計算書では子会社株式売却益1億円が計上され、税務申告上1億円の課税所得が発生します。
この課税所得に法人税率を乗じることで税額を計算することができます。
現状、普通法人の法人税の税率は23.20%※ですので、1億円×23.20% = 2,320万円の法人税が発生します。
※その他、地方法人税、住民税、事業税の税率が必要となります。
売却損が生じる場合の処理
前回と同じ事例で、1億円の売却損が出た場合を考えてみましょう。
このケースでは、課税所得がマイナス1億円となるので法人税は発生しません。
次に子会社株式売却損1億円のほかに、売上1億円がある場合です。
このケースでも、課税所得が0円となり法人税は発生しません。
子会社株式売却損がなければ売上1億円に対する法人税が発生していましたが、売却損と相殺されていることに注目してください。
子会社株式売却損益は、売上や仕入、販売費など他の収益費用と同じように扱われるのです。
事業譲渡との違い
以上のように、親会社が子会社株式を売却した際の税金について説明してきましたが、ここで事業譲渡との違いを考えてみましょう。
親会社の不採算部門を他社に事業譲渡するような場合です。
基本的には、子会社株式の売却と同様に課税所得が増加し法人税が発生します。
異なる点は、事業譲渡の金額に10%の消費税がかかることです。
買手としては株式購入時には発生しなかった消費税がかかってしまうため、投資コストの回収に余計に時間がかかってしまう場合があります。
そのため、スキーム選択自体がバリュエーションにも影響し交渉上のポイントにもなりえます。
株式売却が良いのか、事業譲渡が良いのか、その他会社分割や合併など様々なスキームがありますが、事前に税務についても確認しておくことが必要です。
親会社経営陣売却益が発生する場合は、どうしても税金が発生してしまうのですね。
何かできることはありませんか?
編集部株式を売却する前であれば、対策は色々考えられます。
次章にて説明していきます。
子会社株式売却時の税金対策
親会社が子会社株式を法人に売却する際には、課税所得が発生し基本的には法人税の支払が必要です。
せっかく株式売却代金を得たとしても、法人税等により手取額は少なくなってしまいます。
この章では、簡単な税金対策と注意すべきポイントを説明していきます。
売却のタイミングを調整する
多額の株式売却益が出ると見込まれる場合、なるべく多くの損金が出る決算期に売却することで、法人税の金額を抑えることができます。
今期の利益は0円、来期は大きなマーケティングを行うことで1億円の赤字になると見込まれています。
この際、子会社株式売却益の計上は、今期と来期のどちらが有利になるでしょうか。
- 今期に子会社株式売却益を計上した場合の法人税
今期:1億円×23.20% = 2,320万円の法人税が発生
来期:法人税なし
- 来期に子会社株式売却益を計上した場合の法人税
今期:法人税なし
来期:法人税なし
上記の2パターンを図示してみます。
今回は費用として広告宣伝費を例としましたが、損金になる投資であれば何でも構いません。
ただし、新規工場を建設するといった固定資産への投資は減価償却費を通じて損金算入されるため、1年間の税金に与える影響は小さくなることに留意してください。
以上より、子会社株式売却のタイミングを調整することで、法人税の発生も調整することができるのです。
これをタックスプランニングと呼びます。
繰越欠損金が生じる場合
反対に1億円の子会社株式売却損が出るケースを考えてみましょう。
その他に損益がないと仮定すると子会社株式売却損1億円により、課税所得は-1億円となります。
そのため、この決算期の法人税はゼロです。
この-1億円の課税所得を繰越欠損金と呼びますが、繰越欠損金は青色申告であることを前提に翌期以降に繰り延べることができ、翌期以降に計上する課税所得と相殺させることができます。
ただし、繰越欠損金は利用制限があることには留意が必要です。
2019年4月1日以降に始まった事業年度から、繰越欠損金の繰越期間は10年、控除できる金額は所得の50%※となります。
※中小法人等であれば100%となります。
事例でおさらいしてみましょう。
今期株式売却損1億円を計上し、繰越欠損金1億円が発生。翌期に課税所得1億円が発生する場合です。
- 今期の法人税
法人税なし、繰越欠損金1億円が発生。
- 翌期の法人税
(課税所得1億円―(課税所得1億円×50%))×22.30% = 1,115万円の法人税発生
図示すると下記のとおりです。
一部売却時の配当金に関する論点
子会社株式を売却する際は、保有株式を全て売却するのではなく一部売却することも考えられます。
この際、持株比率の変動額によっては受取配当金の益金不算入額の計算に違いが生じることがあるので留意が必要です。
具体的には下記の表のとおりに計算されます。
連結対象となる50.1%、関連会社対象となる20%、の他に益金不算入割合が33%となる持株比率についても意識しておくようにしましょう。
編集部はい。
売却相手を探すことももちろん重要なのですが、売却時期やスキームによって税金が変わるため、複合的な検討が必要です。
状況に応じたベストなスキーム選択が必要
子会社株式を売却する際、考えなければならないポイントがいくつかあります。
重要な点として、子会社株式のバリュエーション、親会社の税務ポジション、投資計画を含めた長期事業計画、スキーム選択などが挙げられます。
重要性のある取引金額であれば、適時開示事項にも該当しIR戦略も考えなければなりません。
不利なスキームを選択してしまった場合や、予想外に売却益が出てしまい多額の税金を支払うことになっては後の祭りです。
売却前の慎重な検討が必要不可欠なのです。
スピードM&Aでは公認会計士などM&Aに精通した士業も在籍しており、売却相手を探すだけではなく、経営戦略面も含めた総合的なアドバイスが可能です。
お気軽に一度ご相談頂けますと幸いです。
編集部もちろん、構いません。
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