中小企業は深刻な後継者不足に悩んでいます。
帝国データバンクの調査では中小企業のうち約127万社は後継者が決まっておらず廃業の危機にさらされています。
後継者不在の問題を解決するために第三者への事業承継M&Aを検討している経営者は増えています。
同時に事業拡大のため、他社を譲り受けたいという経営者や企業も増えています。
しかし、M&Aを実行するためには多額の資金が必要です。
もちろん手元資金で実行することができれば良いですが、なかなかそのようなキャッシュリッチの企業は少ないのが実情です。
手元資金だけではM&Aを実行することができない場合、銀行から借入を行うことを考えるでしょう。
しかし、融資の審査に通るか不安に思っている経営者は多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、元メガバンク行員である筆者がM&A絡みの融資について詳しく説明します。
銀行の生々しい現場や審査のポイントについて説明しますのでぜひ参考にしていただけますと幸いです。
銀行のM&A絡みの融資の実情
この章では銀行のM&A絡みの融資の実情について説明します。
既存顧客(与信先)の融資は通りやすい
私がいたメガバンクにおいては、M&Aに関する融資で圧倒的に多かったのが銀行の既存顧客(与信先)の案件です。
既存顧客が企業買収のため資金調達を相談された際、これまで融資実績のない企業とくらべると圧倒的に融資は通りやすくなります。
融資の実績があるので過去の経営状況も分かりますし、決算書等の資料も数年分揃っているからです。
また、会社に何度も足を運んでいるので経営者の人となりや会社の雰囲気がわかることも大きな理由です。
銀行の融資は、経営状況や決算書等の資料でしか判断しないというふうに思われているかもしれませんが、経営者の考え方や人となり・会社の雰囲気も重要な融資の判断基準になるのです。
これらの情報がこれまで融資実績がない企業に比べて圧倒的に多いので、既存先の融資は新規先より通りやすくなります。
経営者これまで口座を開いている銀行から融資させてくれと断ってきたのですが、やはり融資実績がないとM&Aのための融資は受けられないものですか?
元銀行員もちろん融資と返済の実績があれば話は通りやすくなりますが、まったく手がないわけではありません。
次の章では融資実績がない場合について解説していきます
融資実績がない企業の買収のため融資実行はハードルが高い
もちろん新規顧客の持ち込み案件の融資は100%通らないというわけではありません。
銀行も融資を実行していかないと利息を稼ぐことができないため、優良な案件であれば積極的に融資したいと考えています。
そのためこれまで融資実績がない企業の融資相談であっても、銀行側から見て優良と判断されれば融資を得ることができます。
M&Aの融資に積極的か消極的かは支店や法人営業部の業績によって左右される
銀行融資の積極度は法人営業部や支店の業績、法人営業部長の考え方によって大きく左右されます。
融資目標が既に達成されている場合、よほど積極的な法人営業部長でなければ、融資する事はありません。
また将来が有望視されている法人営業部長の場合、積極的に融資をして貸し倒れとなるリスクを恐れます。
よって融資の判断は一般的な法人営業部長よりも厳しくなってしまいます。
私が在籍していた銀行では、銀行内の同じ位の規模の法人営業部や支店で業績を競い合う評価体系でした。
1年間の業績によって、法人営業部や支店のランクが明確に付けられるのです。
業績が良い上位の法人営業部や支店は業績表彰という賞をもらうことができます。
業績表彰を受けた法人営業部や支店の部長や行員の評価は、当然ながら良くなります。
今後の出世にも影響してきますし、ボーナスの査定も大きく変わってくるのです。
反対に下位3割などに入ってしまうと評価はものすごく低くなってしまい、場合によっては、責任者である法人営業部長や支店長が飛ばされるのです。
このような事態は避けたいため、業績が下位に低迷している場合、積極的に融資を通す傾向にあります。
もちろん業績表彰のボーダーラインにある法人営業部や支店の場合も同様です。
残念な話ではありますが、このように銀行の都合によって融資の判断は大きく変わってしまうのか実情なのです。
買収資金の融資を相談する際の3つのポイント
ここからは融資実績のありなしに関わらず、M&Aのための資金調達を相談する際のポイントをひとつずつ解説していきます。
1.決算書と事業計画書を用意する
銀行の融資の審査を受けるには3期分の決算書と謄本(新規先の場合のみ)、事業計画書・資金繰り表などが必要です。
資金繰り表を作成していない企業が多いですが、融資を受けるのであれば必ず用意するようにしましょう。
そして事業計画書では、買収後に事業がどのように発展していくかを盛り込む必要があります。
銀行は事業の内容やビジネスモデルなどは重視せず、数字のみを見ると巷では言われていますが、銀行側もこの買収はシナジーがあるのか、無理な買収計画ではないかを必ずチェックします。
元銀行員そうです。
ですので銀行に相談するタイミングは買収先企業の決算書を取得以降となります。
元銀行員可能であれば基本合意を締結し独占交渉の権利を得てからのほうが望ましいですが、買収後の事業計画が作成済みであれば早い段階から何度も相談しておくことと銀行側も進捗や本気度がわかりますので話が進みやすい可能性もあります。
2.これまで融資実績がない銀行に相談する際は紹介を使う
新規の持ち込み案件の場合、一般的に与信先よりも審査は厳しくなります。
しかし、新規先の持ち込み案件の場合でも融資の審査に通りやすくする方法があります。
それはズバリ紹介です。
例えば与信先からの紹介や地元の有力者の紹介などの場合、融資を断った場合、与信先や地元の有力者の顔が立たなくなり関係性が悪化してしまうことが懸念されます。
重要な顧客であればあるほど関係性が悪化することを恐れるので、何が何でも融資を通そうとする傾向にあります。
また与信先からの紹介の場合、過去に新規に与信をしたときの部長が今の銀行の役員などの場合、融資は通りやすくなります。
法人営業部のトップである法人部長は意外と異動した後も経営者との付き合いが続いているケースは多いのです。
役員に思い入れがある会社の場合、毎年開催される地区ごとのお客様懇親会に毎年参加する場合もあります。
このような与信先からの紹介の場合、現在の法人部長は役員からの心証が悪くなることを恐れるので意地でも融資を通すのです。
実際に私が銀行に在籍していた時も、まずこの会社には融資できないだろうと思っていた先でも、役員から鶴の一声がかかり融資が一瞬で通ったことがあります。
このように銀行は厳格に融資の審査をしているように見られますが、実はそんなこともないのです。
3.複数の銀行に相談をする
現在の法人融資は、スコアリングで機械的に審査をする場合が多いですが、それでも法人営業部長には融資の決済権はあります。
担当者に力があったり法人営業部長に気に入られている場合、融資の審査が通る確率が上がることが一般的です。
また担当者によってリスクを取る担当者もいますし、リスクを取らない担当者もいます。
企業の立場に立って、親身になって相談に乗ってくれる担当者に当たれば融資の審査に通りやすくなるのです。
ですのではじめに相談した銀行の担当者があまり乗り気ではない、力量が足りなそうだと判断できたら他の銀行にも相談をしていくのがおすすめです。
経営者ひとつの銀行とじっくり話を詰めていくほうが、自社のことや買収計画についても理解が深くなって融資が受けられやすいと考えていたが違うのですね。
元銀行員もちろん、その可能性もございます。
しかし銀行は「他の銀行が貸すならうちも貸します」というケースも多々あります。
複数の銀行に相談して少額でも融資を得られれば他の銀行からも融資を得やすくなり、買収資金の総額を複数の銀行から調達することも可能となります。
買収資金の融資でよく質問されること
回答よく利益の何分の1くらいの買収案件ならば融資が受けやすいかという質問を受けますが、正直会社の状況によってまちまちなのでなんともいえません。
利益があまり出ていなくても潤沢な内部留保や個人資産があれば銀行は取りっぱぐれることはないので大きな金額でも貸しやすくなります。
回答銀行の融資はスコアリングという審査方法を採用しています。
スコアリングとは、売上や利益・資産状況などを点数化して一定の点数を超えればお金を借りることができる審査方法です。
スコアリングは機械的に審査できることから以前に比べて銀行の審査は早くなりました。
スコアリングで重要視する項目は、各銀行によって違いはありますが、私がいた銀行では経常利益や内部留保を重視していました。
また経営者の個人保証を入れられるかどうかも重要なポイントです。
個人保証を入れる場合は経営者個人の資産状況も重視されます。
質問一度相談をした際に買収後の事業計画書の不備を指摘されて不満なのですが再度相談したほうが良いですか?
回答事業計画書の指摘を担当者の方がしたということは融資見込みがあると判断したからかもしれません。
担当者も成績を上げるために忙しいため、はじめから無理筋な相談には指摘せずにお帰り頂くことも多いので、指摘をされたということはそこを修正すれば融資の可能性があるということでもあるので、なるべく早く計画書を作り直して再訪問しましょう。
まとめ
今回は銀行の融資の実情について説明をしました。
残念ながら銀行の融資は表に出ているような基準だけで決まるわけではありません。
銀行の内部事情によって大きく左右されることについて知っていただければ幸いです。
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