「M&Aを行う際はアドバイザリー契約を締結するらしいけど、どんな内容の契約なの?」
「アドバイザリー契約とコンサルティング契約・仲介契約…紛らわしい契約が多すぎる…」
M&Aを行う際、専門家であるM&Aアドバイザーと契約することがあります。
そのときM&Aアドバイザーと契約するのがアドバイザリー契約です。
しかしアドバイザリー契約はあまり一般的な契約ではないため、それがどのような内容のものかは気になるところです。
また契約を締結したことにより発生するM&Aアドバイザーへの報酬も知っておかなければなりません。
そこで今回の記事ではアドバイザリー契約の実態を解説します。
具体的には以下の順番で解説を進めていき、最終的には契約締結時の注意点を紹介します。
- コンサルティング契約・仲介契約をはじめとした他の契約とアドバイザリー契約の違い
- アドバイザリー契約に記載される事項
- アドバイザリー契約により発生する成功報酬を計算式と具体例
- M&Aの流れの中でみるアドバイザリー契約
- アドバイザリー契約締結時のチェックリスト
アドバイザリー契約という特徴的な名称ではありますが、契約自体は業務委託契約の一つの形態です。
そのため特有の事項を理解し、またM&Aの流れとあわせて確認することで契約の実態が理解できます。
あなたもアドバイザリー契約を理解し、M&Aの第一歩を踏み出しましょう。
他の契約との違いからみる「アドバイザリー契約」
アドバイザリー契約は他の契約と似た部分も多く、わかりにくいですよね。
そのため、ここでは似た契約の関係を整理していきましょう。
アドバイザリー契約と混同しやすいものとしては以下の3つがあります。
- 業務委託契約
- コンサルティング契約
- 仲介契約
まずはこれらの違いを理解することが、アドバイザリー契約の実態を理解するために必要です。
そして、これらは以下のような関係を持っています。
このようにアドバイザリー契約、コンサルティング契約、仲介契約はいずれも「業務委託契約」に含まれています。
業務委託契約は、自社の特定の業務の処理を外部者に委託するものなので、具体的な内容は多岐にわたります。
そのためビジネスシーンごとに業務委託契約に特定の名称を与えて、アドバイザリー契約、コンサルティング契約、仲介契約などと呼ぶのです。
法律に名前のある契約としては、「請負契約」や「委任契約」が業務委託契約に近しいものとなります。
アドバイザリー契約とコンサルティング契約の違い
続いて、アドバイザリー契約と仲介契約の違いをみていきましょう。
どちらもM&Aでよく使われるものですが、「M&Aの際にM&A仲介会社1社のみで成立するか、買い手と売り手どちらかのみに代理人となるM&Aアドバイザーがつくか」という点が異なっています。
アドバイザリー契約売り手と買い手にそれぞれに自社に代わってM&Aの交渉を進める代理人がつく場合に結ぶ契約
大企業同士で行うような規模の大きなM&Aではアドバイザリー契約が利用されることが多くなります。
このとき売り手と買い手それぞれがFA(ファイナンシャル・アドバイザー)やM&Aアドバイザリー会社と呼ばれる代理人を立てる形でM&Aを最後まで進めていきます。
この記事ではFAやM&Aアドバイザリーを行う人や会社をM&Aアドバイザーとして紹介していきます。
仲介契約仲介会社1社が売り手と買い手の間に立ってM&Aを進める場合に結ぶ契約
中小企業M&Aでは仲介契約が利用されることが多くなります。
仲介会社1社が売り手と買い手の間に立ち、それぞれのニーズを調整していく形でM&Aが進みます
M&A完了までの期間を短くしたい場合は仲介会社を利用するのが良い場合が多いです。
仲介会社はM&Aがまとまらないと手数料が入ってこないため、買い手と売り手が妥協できる落としどころを用意してM&Aを成立させることにインセンティブがあるためです。
その点、M&Aアドバイザーは、売り手か買い手のどちらか片方だけとしか契約をしないため、クライアントの利益を最大限に尊重してくれます。
ところが、代理人同士が落としどころを見つけられずM&Aが破談となってしまうことも少なくありません。
つまり契約する側が何を重視するかによって、どちらと契約すればよいかは変わるということになります。
アドバイザリー契約の具体的な内容
ここまでみてきたように、アドバイザリー契約には以下の2つの特徴があります。
- 企業からのM&Aに際しての幅広い疑問に対して全般的な回答・助言・提案をする
- 売り手と買い手のどちらかのみにFAなどM&Aアドバイザーが担当する
多くの企業には顧問弁護士がおり、企業に何かあった際の法的な相談役として機能しています。
アドバイザリー契約におけるM&Aアドバイザーは、以下のようなかたちでM&Aの取引における顧問相談役の役割を果たすのですね。
それでは、ここからはアドバイザリー契約に記載される具体的な内容についてみていきましょう。
「契約の当事者を記載する」などは当然として、アドバイザリー契約特有の意味を持つ項目としては以下のものがあります。
- 業務範囲
- 報酬の取り決め
- 業務の費用負担
- 資料提供
- 秘密保持
それぞれについて詳しくみていきましょう。
業務範囲
アドバイザリー契約は業務委託契約の一種であるため、具体的にどのような業務を行うかを決めることは重要です。
それが業務範囲として契約に表れます。
具体的には以下のような記載となる場合が多いです。
ただし簡易な契約では「本件M&Aに関する一切の業務」のように包括的な記載のみとなる場合もあります。
多くの場合、M&Aにおいてとくに売り手は専門的な知識を持ち合わせていないことが多いため、アドバイザリー契約においてM&Aアドバイザーが行う業務の範囲は広くなります。
報酬の取り決め
アドバイザリー契約には、売り手または買い手が仲介会社へ支払う報酬についての内容も記載されます。
報酬については、計算式や具体的も含めての解説を後述していますので、ここでは契約内容として報酬の取り決めが重要であるという点のみおさえておいてください。
業務の費用負担
契約報酬とは別に、M&AアドバイザーがM&Aの過程において発生した費用を誰が負担するかについても記載がなされます。
たとえばM&Aを実現する方法によっては官報公告が必要となりますが、その公告掲載料金をM&Aアドバイザーがいったん支払い、のちほどクライアントに請求することもあります。
こういった便宜的な支払いについての内容が費用負担の項目です。
基本的にクライアントの名で行う手続きに関する費用は、最終的にクライアントが支払うことになります。
一方で、M&Aアドバイザーの移動のための交通費などはM&Aアドバイザーが支払うことが多いですが、遠方で宿泊費が多くかかる場合は別途請求がある場合もあります。
資料提供
M&AアドバイザーがM&Aの手続きを進めるためには、売り手または買い手から様々な資料の提供を受ける必要があります。
決算書にはじまり従業員名簿、取引相手一覧、会社案内パンフレットなど、それこそ会社の全体像を把握するためのありとあらゆる資料が必要になるのです。
そのための項目が資料提供に関するものです。
本項目では、以下のような記載が行われます。
契約書を細かく設定することで互いに信頼できるようになる側面があるのです。
秘密保持
アドバイザリー契約において秘密保持の項目は非常に重要です。
それこそ前述したようにM&Aアドバイザーはとくに売り手から機密性の高い資料の提供を受けるため、それを外部に漏らさないことを約束する必要があります。
またM&Aの手続きが進むと、売り手・買い手の情報が相手方の企業に公開されます。これも秘密保持の対象になります。
このようにM&Aは、売り手、買い手およびM&Aアドバイザーがそれぞれ高いレベルで秘密保持を行いながら手続きを進める必要があるのです。
アドバイザリー契約における報酬を計算してみよう
さて、ここまで契約に記載される具体的な内容からアドバイザリー契約の実態が見えてきたはずです。
M&Aには複数の分野にまたがる手続きが必要なため、契約の内容も網羅的かつ複雑になります。
なかでも最終的に売り手・買い手が仲介会社やFAなどM&Aアドバイザーに支払うことになる報酬については気になるところではないでしょうか。
そこで、ここではアドバイザリー契約における報酬について詳しく解説していきます。
報酬体系は様々
アドバイザリー契約にもとづいて仲介会社に支払われる報酬には以下のように様々な種類があります。
-
着手金
-
月額報酬
-
中間報酬
-
成功報酬
ただし報酬体系については仲介会社ごとに大きく異なります。
上記のすべての支払いを求めるM&Aアドバイザーもありますが、成功報酬のみのM&Aアドバイザーもあります。
しかし様々な報酬体系があるなかで必ずと言っていいほど発生する報酬が成功報酬です。
そして多くの場合、成功報酬はレーマン方式で計算されます。
レーマン方式とは
レーマン方式はM&Aの成功報酬を計算する際によく使われるもので、以下のようにM&Aの取引額が大きくなるにつれて報酬割合が小さくなります。
- レーマン方式の例
- 取引額の3億円以下の部分…5%
- 取引額の3億円超5億円以下の部分…4%
- 取引額の5億円超10億円以下の部分…3%
- 取引額の10億円超50億円以下の部分…2%
- 取引額の50億円超の部分…1%
ただし「どの規模の金額を何%にするか」はM&Aアドバイザーによって異なります。
規模の小さなM&Aを専門的に取り扱う会社の場合は「成功報酬一律200万円」というものもあります。
マッチングサイトを使う場合は、買い手と売り手が直接交渉することが多く、交渉がスピーディーに展開することも少なくありません。
また成功報酬は一律3%などになっており、小規模なM&Aでは手数料が安くなることが多いのです。
成功報酬計算の具体例
さて、ここではそれではレーマン方式での成功報酬計算の具体例を確認していきましょう。
一度、計算例をみるとすぐに理解できます。今回は以下のようなM&Aが行われたと仮定して解説します。
上記の例を先ほどご紹介したレーマン方式の例をもとに成功報酬を計算します。
- レーマン方式の例
- 取引額の3億円以下の部分…5%
- 取引額の3億円超5億円以下の部分…4%
- 取引額の5億円超10億円以下の部分…3%
- 取引額の10億円超50億円以下の部分…2%
- 取引額の50億円超の部分…1%
これをもとに計算すると、成功報酬は以下のとおりです。
- 取引額の3億円以下の部分:3億円×5%=1.500万円
- 取引額の3億円超5億円以下の部分:2億円×4%=800万円
- 取引額の5億円超10億円以下の部分:5億円×3%=1,500万円
上記の合計金額を計算すると以下のようになります。
成功報酬=①+②+③=3,800万円
今回の例における成功報酬は3,800万円となりました。
3,800万円というと大きな金額のようにも感じますが、譲渡価格が10億円に到達する規模の報酬額としては一般的な範囲のものとなります。
たとえば事業譲渡が使われた場合は、事業譲渡の対価をもとにレーマン方式で成功報酬が計算されます。
合併が使われて対価として買い手企業の株式が提供された場合は、提供された株式を金銭として評価した額をもとに成功報酬が計算されます。
仲介会社のなかには「M&Aで移動した企業や事業の総資産額」をもとに成功報酬を計算するものがあります。
財務諸表の内容にもよりますが、総資産は純資産や将来利益に比べて大きな額になることが多いため、成功報酬も大きな額になります。
契約締結時は報酬の取り決めについてしっかりと確認してください。
M&Aの流れとあわせてアドバイザリー契約の流れを確認
ここまでの解説でアドバイザリー契約がどのようなものか、報酬も含めて理解できてきたのではないでしょうか。
アドバイザリー契約は明確な定義を持つものではありませんが、おおまかな特徴を頭に入れておくことでM&Aアドバイザーとの契約であなたが不利な状況になることを避けることができます。
では、ここからは実際のM&Aの流れにアドバイザリー契約の各工程を当てはめてみていきましょう。
これでアドバイザリー契約を点ではなく線として、より深く理解できるはずです。
仲介会社を使う一般的なM&Aの流れに当てはめると以下のとおりとなります。
さきほども触れましたがM&Aアドバイザーの中には着手金や中間報酬、月額報酬を取らずに完全成果報酬のみで受けているM&Aアドバイザーもいます。
M&Aを行う際、M&Aアドバイザーはまさにあなたの会社のパートナーとなります。
M&Aアドバイザーを使い倒すつもりで細かな疑問も遠慮なくぶつけましょう。
そういうつもりで臨まれたほうが、M&Aアドバイザーにとっても腹を割って話せるクライアントととして、良いパートナーとなってくれると思います。
【9つの注意点】!アドバイザリー契約締結時のチェックリスト
さいごにアドバイザリー契約を締結する際に注意すべき点を解説します。
ここまでの内容を確認する意味も込めて確認してみてください。
注意点をチェックリストにまとめると以下のとおりです。
以下ではそれぞれについて解説していきます。
専任契約か非専任契約か
アドバイザリー契約には専任契約と非専任契約があり、それぞれ以下の特徴を持ちます。
専任契約契約を締結したM&Aアドバイザー以外に業務を依頼できない
非専任契約契約を締結したM&Aアドバイザー以外にも業務を依頼できる
M&Aアドバイザーの中には専任契約を強く求める人や会社がいます。
アドバイザーとしては専任契約であれば他のアドバイザーに先を越されるということがないため、腰を据えて案件に取り組むことができます。
そのため専任契約の案件を優先することもあるのは心理的に仕方のないことと言えます。
しかし専任契約の場合、一定期間は契約したM&Aアドバイザーを通してしか買い手候補を探せません。
もし契約したM&Aアドバイザーと相性がよくなかったり、実は得意な領域ではなく良い買い手候補を見つけられなかったりしたときも、専任契約の期間中はM&Aアドバイザーを変えることができません。
専任契約にするかどうかはメリットデメリットをよく検討して決める必要があります。
そのときは断ったのだが、なぜ信用できない?
他のM&Aアドバイザーより早くM&Aを成功させればよいだけですので。
契約するM&Aアドバイザーが多ければ、それだけ情報漏洩リスクも高まります。
おすすめは2~3社のM&Aアドバイザーと契約することです。
M&A成功の確率を上げつつ、情報漏洩等のリスクを下げられるのが2~3社となります。
仲介契約の側面が強くないか
アドバイザリー契約の当事者となる仲介会社が、1社で売り手と買い手の双方を仲介するのか、それぞれに別に仲介会社がつくのかは重要です。
前述したとおり、前者は仲介契約と呼ばれることが多く、後者はアドバイザリー契約と呼ばれることが多いです。
仲介契約の場合、仲介会社は売り手と買い手の中立の立場となります。
つまり、あなたの会社のニーズを実現するための全面的なコミットが期待できない恐れがあるのです。
その方が売り手と買い手の対立構造を作らずに済む場合もありますので、仲介のほうがM&Aが成立しやすいとも言えます。
業務範囲があなたの目的に沿うものか
はじめてM&Aに臨む場合は、M&Aアドバイザーから全面的な助言・提案を受けるために、アドバイザリー契約における業務範囲は広くしておくのがおすすめです。
一方で、M&Aに慣れている場合は業務範囲をしぼることで、報酬を安くするという交渉も可能です。
アドバイザリー契約の業務範囲は、あなたの経験、知識および目的に沿う形で柔軟に画定していきましょう。
報酬発生について
報酬については記事の中盤でも解説しましたが、主に以下の3つのポイントを確認してください。
- 発生する報酬項目
- 各報酬の支払いのタイミング
- 成功報酬が何を基準に計算されるか
とくに成功報酬は最も大きなものとなるため、株式や事業の譲渡価格を基準に計算するのか、負債も含めたM&Aで移動するすべての資産を基準に計算するのかで大きく金額が変わってくるのでしっかり確認しましょう。
また可能であれば、成功報酬の具体的な金額まで見当をつけておくことができると良いでしょう。
契約は自動更新か
多くのアドバイザリー契約は自動更新となっています。
M&Aは開始から完了までどのくらいの時間がかかるか事前に予想することが困難であるため、自動更新が最も適しているのです。
しかしなかには自動更新の定めを記載していないものもあります。また期間が定められいる場合はその期間が長すぎないかを確認しておきましょう。
契約の解除条件の内容
アドバイザリー契約をあなたの側から自由に解除できるかどうかも重要です。
新しくM&Aアドバイザーと契約したいと思っても、契約の解除や専任契約から非専任契約への変更ができなければ時間を無駄にしてしまいます。
また、あなたが契約事項に反した場合に契約を解除される恐れもあるため、どのような事項が解除条件となるかの確認は必須です。
売り手と買い手の間で締結される契約についてはM&Aアドバイザーのチェックを期待できますが、M&Aアドバイザーと締結するアドバイザリー契約については、あなたの目で不利なものでないかを確認しなければなりません。
必要に応じて弁護士へ依頼することも念頭に置きましょう。
まとめ
今回はアドバイザリー契約について解説しました。明確な定義を持たない契約ですが、大まかなところをイメージすることができるようになったでしょうか?
結局のところ、アドバイザリー契約・仲介契約・コンサルティング契約といった契約の名称に惑わされずに、契約の実質的な内容を細かく確認していくことが大切です。
そうすることで、契約上の義務を含めてM&Aを戦略的に進めることができます。
- 今回の記事のポイント
- アドバイザリー契約は業務委託契約の一種
- アドバイザリー契約はM&AアドバイザーからM&Aについて全般的な助言・提案を受けるもの
- アドバイザリー契約では、売り手か買い手のどちらかにM&Aアドバイザーがつく
- 報酬には着手金、月額報酬、中間報酬、成功報酬などがある
- 成功報酬はM&Aの取引金額などをもとにレーマン方式で計算されることが多い
- M&A全体の流れとあわせてアドバイザリー契約を理解しよう
- 売り手は2~3社のM&Aアドバイザーと契約するのがおすすめ
M&Aを成功させるためには、M&Aアドバイザーがどのような働きをするかが重要です。
そして、その業務範囲を決めるのがアドバイザリー契約です。
あなたもM&Aに進む際は、「自分がM&Aアドバイザーに何を求めているか」を念頭に置いて、アドバイザリー契約の内容を細かくチェックしていってみてください。
M&Aアドバイザーを選ぶことはM&Aの成功を左右すると言っても過言ではありません。M&Aの最初からつまづかないためにも契約内容をしっかり把握していきましょう。
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編集部
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