事業承継の手段として、M&Aはとても優れた方法です。
廃業せずに事業を存続させることができ、取引先に迷惑をかけることなく、従業員の雇用も守れます。
オーナー経営者であれば、保有している株式を売却して創業者利益も手に入ります。
しかし、M&Aは、もし失敗すると取り返しのつかないハイリスク・ハイリターンな手法でもあります。
そこで、譲渡企業から見たM&Aのリスクについて、陥りやすい失敗事例や事前対策とともに詳しくご紹介します。
譲渡企業から見たネガティブな要素
リスクといっても、通常の手順を踏んで取り組めば、M&Aは落ち着くべきところに落ち着くものです。
ですから、必要以上に恐れることはありません。
しかし、どのようなリスクがあるのかを知らずにM&Aの作業に入ってしまうと、思わぬ失敗をすることがあります。
社会人経験が少ないベンチャー企業の経営者や、後継者がおらず事業承継を急いでいる中小企業のオーナー経営者などは、特に要注意です。
会社を譲渡しようと決めたなら、M&Aに対するネガティブな考えはなくして、リスクについても真正面から取り組んで解消していく姿勢が大切です。
後継者がいなければ廃業するしかないのか?
地方の中小企業の経営者などに多く見られるケースですが、「後継者がいないために廃業するよりは、まだマシだろうか」という不満や不安を抱えながら、M&Aに取り組まれる方がいます。
しかし、一度譲渡を決めたのなら、頭を切り替えるべきです。
実際、現在は団塊の世代と呼ばれる経営者層が70代を迎え始めており、後継者難ということもあって、事業を第三者へ承継するスモールM&Aが急増しています。
そして、その数は今後も右肩上がりで増加し続けています。
後継者がいない=廃業ではなく、廃業しない=M&Aという流れが今後も続くと見られています。
赤字の事業(会社)でも売れるのか?
M&Aでうまく買い手が見つかるのは、現在利益が出ている会社や資産を持っている会社だけだと思っている経営者もいるかと思います。
しかし、現状は赤字であったり、土地建物などの資産を保有していなかったりする会社でも、M&Aの対象となる可能性は十分にあります。
わかりやすい例は、ベンチャー企業です。
スタートアップでまだそれほど収益が上がっておらず、事業を拡大するフェーズにない場合でも、その事業の先進性や可能性、独自の技術があり、優秀な人材がいれば、買収の対象となります。
また、すでに多くの顧客を持ち、今後さらにマーケットが拡大していく将来性があれば、より高い買収額でM&Aが可能となります。
また、社歴が長く、撤退を考えているような赤字の会社や事業でも売れるだろうかと考えている経営者もいるでしょう。
しかし、M&Aは「売り手と買い手のバランス」が合えば、不可能ではありません。
資金繰りが悪くても、会社に信頼や実績があり、多くの顧客を持つ事業であれば、譲受したいという買い手があるかもしれません。
ただし、M&Aは交渉期間が長いため、成約まで耐えられるかどうかを念頭に置く必要があります。
焦って売りに出すとリスクも大きくなる?
手放すからには、できるだけ早く売りたいと思う経営者もいるかと思います。
M&Aの手法によって手続きのスピードや金額なども変わってきますが、注意しなければならないことがあります。
それは、買い手が見つかったからといって、すぐに契約するのが良いとは限らないということです。
M&Aの交渉に焦りは禁物です。
交渉が長引くのはよくあることですが、しびれを切らして契約すると、自社に不利な条件で売り渡すことにもなりかねません。
焦って会社を売却しようとせず、まず自社の分析をしっかり行うことが重要です。
業績や資産とともに、今後どれだけ収益を上げられるかという事業計画もしっかり準備できれば、買い手は魅力を感じ、企業価値を高く評価してくれます。
また、買い手にとって魅力的な企業と評価されれば、必然的にM&Aの交渉先も多くなります。
そうした中から、より好条件を提示する買い手と交渉することで、M&Aを成功に導きます。
相手の立場にも配慮して、きちんと交渉を進める必要があります。
M&Aのリスク~陥りやすい失敗と事前の対策~
M&Aの手続きや交渉では、さまざまなトラブルが発生したり、失敗したりすることがあります。
そこで、具体的にどのようなトラブルや失敗があるのかを見ていきましょう。そして、事前の対策についてもご紹介します。
情報が漏れて業績が悪化するリスク
M&Aは極秘で進めることが一般的です。
なぜなら、会社を売りに出している事実が知れ渡ってしまうと、それが株価に影響したり、業績が悪化したりする可能性があるからです。
たとえ家族や親友であっても、口外しないで進めることが大切です。
株主・従業員・取引先に勘付かれ反対されるリスク
M&Aの情報は社外だけでなく、社内に対しても漏れないように注意する必要があります。
従業員に自社が売りに出されていることを知られてしまうと、「自分たちはリストラされるのではないか?」「解雇されて生活が危うくなるのではないか?」という不安が生じます。
そうして、社内で反対運動が起きたり、退職者が出たりする事態に発展する可能性もあるのです。
また、取引先にM&Aのことが伝わると、日常業務にも支障が出るでしょう。
ですから、情報管理には細心の注意を払い、契約が成立するまでは、社内であっても相談する相手を選びましょう。
不適切なM&Aアドバイザーにかき回されるリスク
M&Aの手続きは、高度に専門的で煩雑でもあるため、専門のコンサルティング会社やアドバイザーに依頼するのが賢明です。
ただし、ここで注意しなければならないことがあります。
M&A専門家の仲介料や手数料は、大きく2つのタイプに分かれます。
ひとつは定額型で、コンサルティング料を案件ごとに月額などで支払うもので、結果的にM&Aが成立しなくとも手数料を払います。
もうひとつが成果報酬型で、相談料などは無料ですが、成約した際に手数料を支払うシステムです。
一見すると成果報酬型のほうがコストもかからず、リーズナブルにも見えます。
しかし、アドバイザーが契約を取りたいがために、相場より高いバリュエーション(企業価値評価)を提示してくることもあります。
その金額は、実際に買い手企業が提示した金額ではないため、客観的な企業価値評価ではありません。
そのため、その後のM&A交渉での判断が難しくなります。
ですから、うまい話にのせられないよう注意するとともに、公正かつ誠実に協力してくれるM&Aの専門家を選ぶことが重要となります。
デューデリジェンスで不正が発覚するリスク
デューデリジェンス(DD)は、M&Aの重要なステップです。
売り手企業の事業や財務、法務、人事などを、買い手企業が詳細に調査しますが、そこで簿外債務や粉飾決算が発覚し、トラブルになることがあります。
経営者自身が不正を忘れているということもあり、信頼を失って企業評価が下がるケースもあります。
また、M&Aの成立後に問題が発覚したとしても、ある時点での事実などが正確であることを相手方に保証する「表明保証」を履行する責任があります。
DDで不正を指摘される前に、気になることは包み隠さずコンサルタントに相談し、誠実に情報を公開するようにする必要があります。
買い叩かれるリスク
M&Aでの売り手企業の目標は、会社や事業をできるだけ高く買ってもらうことです。
しかし、買い手企業から提示される企業価値が低く、安く買い叩かれてしまうというリスクもあります。
特に経営が赤字の状態で売却したら、買い叩かれるだけです。
そのため、できるだけ利益が出ているあいだにM&Aの成約ができるようにしましょう。
ただし、売れる会社と売れない会社を分けるのは、純資産よりも、むしろ営業でのキャッシュフローの状況です。
キャッシュフローはいわば会社の血液で、事業が回っている証拠です。
たとえ債務超過にあっても、キャッシュフローがプラスであれば改善することが期待でき、買い手が見つかることもあります。
敵対的買収でM&A後に経営状態や業績が悪化するリスク
敵対的買収とは、売り手企業の合意を得ずに行われる買収です。
日本では売り手企業の合意を得る友好的な買収が多いものの、近年では敵対的買収が行われるケースも出てきています。
敵対的買収は、原則として株式公開買い付け(TOB)により、既存の株主から株式を買い集めてターゲットとなる企業を買収します。
3分の1の株式を保有すれば株主総会の特別決議を拒否でき、過半数を取得すれば子会社化して経営権を握ることができます。
そのため、いつ発生するかわからないという特徴があります。
敵対的買収のリスクは、会社の在り方を大きく変えます。
従業員のモチベーションの低下や人材の流出、業績や経営状態の悪化などが起こる可能性もあります。
しかし、ターゲットにされやすい企業には、共通する部分があります。
独自の技術や販路を持っていて、他社にまねできない事業を持ちながら、株主構成が不安定で株価総額が低い傾向がある企業は要注意です。
中小企業のようにオーナー経営者や親族が株式の大半を保有していれば、株主構成も安定しているため、敵対的買収に遭う可能性は低いといえます。
しかし、親族などで株式を分けて保有している場合、いざM&Aで株式を譲渡しようとすると反対されたり、どこにあるのかわからなくなったりして、M&A交渉がストップしてしまう場合もあります。
どちらにしても自社の株式については、日頃からきちんと把握しておくことが重要です。
M&A後のリストラで「追い出される」リスクも!?
従業員の雇用を守るため、廃業しないでM&Aに踏み切り、成約できても安心はできません。
M&A後に予想していなかったリストラや配置転換があったり、雇用待遇が悪化したりといったケースがまったくないとはいえないからです。
ただし、実際には買収した会社の従業員の雇用や待遇を維持したいと考えるものです。
それは、買った会社の魅力が人材や技術、取引先、ノウハウ、ブランドなど、人に依存する事柄が多いためです。
特にそれまでいた従業員に退職されると、事業が回らなくなり、経営が悪化すると考えられます。
労働法上でも解雇は難しく、不用意なリストラは思わぬトラブルを生む可能性もあり、買い手企業にとってリスクが高いともいえるでしょう。
それでもM&Aでは、従業員の雇用確保を確約されるか心配なものです。
そうした場合は、基本合意や譲渡契約の段階で、従業員の雇用と待遇の維持について確約を取り付けておくといいでしょう。
ただし、事業譲渡の場合は例外です。
事業譲渡では通常、従業員一人ひとりに個別の同意を得て、買い手企業に転籍する形をとります。
そのため、M&A後に雇用契約は引き継がれません。
新たに「転籍同意書」を作成しますが、それまでの雇用契約が失効したり、同じ雇用条件でなくなったりするケースも多いのです。
M&A後に優秀な人材が流出してしまうリスク
M&A後のリスクとして、優秀な人材が退職や転職などで流出してしまうということがあります。
たとえ同業種同士のM&Aだったとしても、企業文化の違いや雇用条件の変更から、経営陣への不信感や従業員同士の衝突が生まれる可能性もあります。
そうしたことが原因で、人材が流出してしまうのです。
こうした人材流出のリスク対策としては、PMIの実施があります。
PMIとは、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略で、M&A後の統合プロセスを指します。
経営統合、業務統合、意識統合の3段階からなるリスクマネジメントのプロセスで、これを実施することにより、組織体制の構築やしくみづくりを共有し、優秀な人材の流出を防ぐことができます。
失敗事例を知ってM&Aのリスク対策を
M&Aのリスクとその対策についてご紹介しました。
M&Aではそれぞれのステップで、さまざまなリスクがあります。
それらを着実にクリアしていくためには、冷静で落ち着いた客観的視点や粘り強い根気、そして買い手企業に対する誠実さが求められます。
すべてを一度に成し遂げることはできません。
まずはファーストステップとして、M&Aのマッチングサイトなどに登録し、情報収集を始めてみてはいかがでしょうか?
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編集部
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