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M&Aコラム

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LPガス販売業界のM&A丨気をつけたいポイントや事例、最近の動向を解説

販売事業者が年々減少しているLPガス業界。地方のインフラを担う重要な業界である一方で、空き家率の上昇によって市場は縮小を続けています。こうした中で、LPガス業界ではM&Aを用いた組織再編や業界再編が見られるようになりました。

この記事では、LPガス業界の動向や特徴をもとに、M&Aが注目されている理由やM&A時に押さえておきたいポイントまで詳しく解説しています。

LPガス販売業界の動向や特徴

編集部まずはLPガス業界の動向や特徴について、詳しく見ていきましょう。
現在は大きく4つの課題に直面していると考えられます

  • オール電化や都市ガスの影響で販売事業者が減少している
  • 電気や都市ガスの自由化で競争が激化し厳しい状況に
  • 都市ガスや電気に比べて料金が高い
  • 温暖化の影響で販売量が減少傾向にある


それぞれ、一つずつ解説していきます。

オール電化や都市ガスの影響で販売事業者が減少している

生活や商業用に利用されるエネルギーであるLPガス(プロパンガス)の需要は年々減少しています。その背景には、新築やリノベされた住宅がオール電化によってガスを必要としなくなっていたり、都市部ではプロパンガスではなく都市ガスを利用しているといった理由がありました。

株式会社リクルートの調べによると、2025年の時点でオール電化に切り替えている住宅の数は939万戸にも上ると予測されており、空き家を差し引いた総戸数のうち15%程度がオール電化の住宅に切り替わっていると考えられます。

加えて、都市部ではLPガスではなく都市ガスを導入している住宅が多く、2008年の時点では、すでに都市ガスの需要家数がLPガスの需要家数を上回っています。その後も地方の過疎化と都市部の過密化に連動するように需要の格差は開く一方です。

参考:全国の総住宅数は約6,240万7,000戸、持ち家率は約6割――総務省が発表│CENTURY21

電気や都市ガスの自由化で競争が激化し厳しい状況に

LPガス販売業者にとっての競合は、他の販売業者はもちろん、電気や都市ガスといった他のエネルギー業界も含まれています。2016年には電気、2017年には都市ガスの自由化が決定し、業界内に新規参入する事業者が急増しました。

その結果、2019年の時点で新規事業者へ電気契約の切り替え申し込みを行った件数は915万件にも及び、都市ガスに関しても、194万件の契約切り替え申し込みが確認されています。都市ガスは電気エネルギーに比べて参入障壁が高いため勢いは劣るものの、着実に業界構造の変わる足音が聞こえてきています。

こうした中でLPガス業界は、限られた戸数を巡って、さらに激化した競争に巻き込まれることとなります。業界内外での競争に勝ち抜く戦略が強く求められる局面が続きそうです。

電気や都市ガスに比べて料金が高い

LPガス業界が直面する最も大きな課題の一つが「料金の高さ」でしょう。以下のグラフの通り、LPガスの熱量単価は2003年度を境に電気を抜いて最も高くなってしまっています。

その後も高騰を続けており、価格を基準にエネルギーを選ぶ顧客からは選ばれにくくなってしまっているのです。



引用:LPガス・エネルギー産業の現状と今後の展望│伊藤リサーチ&アドバイザリー


競争相手となる電気や都市ガスに比べて料金が割高であることは否めず、高さの理由についても十分な周知が行き届いていないため、電気や都市ガスなど、LPガス以外の選択肢が増えると顧客離れにもつながる恐れがあります。

また、自由料金制であるため、販売店が自由に設定した金額に顧客が納得して契約しているのか、という点についても懸念が残ります。このあたりの不透明性を改善し、業界の持つ負のイメージを払拭する経営努力が求められているのではないでしょうか。

温暖化の影響で販売量が減少傾向にある

LPガス業界の需要は気候の影響を大きく受けます。LPガス業界の書き入れ時は、多くの家庭がガスヒーターを利用する冬。しかし、近年は温暖化の影響もあり暖冬が続いています。

年ごとに寒暖差はあるものの、長期的に見ると年々温度は上昇しており、統計史上で4番目に暖かかった2015年の冬には大手も含めて減益を記録。気温が上がることで反対に業界全体が冷え込んでしまうのがLPガス業界の抱える大きなリスクと言えます。

今後も温暖化の影響は続くため、長期的に減益のリスクを抱えている業界であると言えるでしょう。

LPガス業界の課題を解決するM&A

編集部様々な課題を抱えているLPガス業界ですが、各社は生き残りを賭けて様々な施策を打ち出しています。
中でも散見されるのが業界内でのM&Aです

LPガス販売事業者確かに、周りでもちらほらM&Aという言葉を耳にするようになったな

編集部M&AによってLPガス業界の様々な課題が解決できますからね

  • 後継者を見つけて事業承継が果たせる
  • 従業員を獲得することで人材不足や高齢化に歯止めがかかる
  • 商圏の拡大が果たせる

編集部それでは、詳しく見ていきましょう

後継者を見つけて事業承継が果たせる

LPガス販売業を営む経営者の平均年齢は63歳と高齢化が進んでおり、事業承継のための方策が必要です。40歳代以下の若い経営者が不足しており、業界全体の新陳代謝を図るためにも事業承継を推し進めることが重要といえるでしょう。

M&Aは法人の場合であれば、株式譲渡や事業譲渡を行うことで成立します。事業承継の手段として選ばれることも多く、全国的に事業承継型M&Aへの支援策も拡充してきているので、このタイミングでM&Aを行う事業者も増加していくでしょう。

補助金や融資制度の緩和など、事業承継を後押しする動きも増えています。以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ確認してみましょう。

関連記事:事業承継やM&Aで活用できる事業承継補助金丨採択率や申請手順、使い方まで解説

また、M&Aでは適切な相手企業や後継者候補とのマッチングが成否のカギを握ります。マッチングのためのポイントやおすすめのプラットフォームを解説している以下の記事を参考に、具体的なM&Aの方向性を固めていきましょう。

関連記事:事業承継やM&Aで活用したいマッチングプラットフォーム3選丨後継者の不在を解消しよう

従業員を獲得することで人材不足や高齢化に歯止めがかかる

M&Aによって得られるものは株式や事業の譲渡益だけではありません。買い手企業であれば、相手企業の持つ顧客基盤や営業利益に加えて、そこで働いている人材も獲得できるのが大きなメリットです。

深刻な人材不足に悩むLPガス業界ですが、その理由は低賃金での労働と、業務上欠かせない24時間体制の保安維持に依るところが大きいと考えられます。

LPガス業界の平均年収は276.5万円。全業種平均が531万円なのに対して、賃金は半額程度に留まっており、待遇の悪さから労働の担い手が減少していると考えられます。

加えて、従業員の高齢化も大きなポイントです。全業種の従業員の平均年齢は41.8歳ですが、LPガス業界だけで見てみると、従業員の平均年齢は51.5歳。約10歳も年齢が高く、若い人材の獲得が急がれます。

しかし、業務内容が専門的であり、保安維持にも深い知識と経験が必要です。加えて、肉体的負担の大きさや賃金の安さなどから若い人材が定着しにくい状況が続いていると考えられます。

M&Aによって他社の人材を獲得することでこうした人材不足は解消されますし、資本の拡充によって採用にかけるコストも捻出できるかもしれません。LPガス業界の人材不足を解消するためにも、M&Aは有力な選択肢と言えるでしょう。

商圏の拡大が果たせる

LPガス業界は古くから他の業界と比べても特に強く、各事業所ごとの商圏が定まっていますが、それはLPガスの販売業者に割り当てられた「保安エリア」に由来します。

LPガス販売業者の業務はガスの運搬や補充だけではありません。万が一、ガスが漏れ出たりした際に駆け付けられるよう、24時間体制で保安維持に努めています。それに付随して、ゴールド保安認定事業者(第一号認定LPガス販売事業者)に認定されている事業者は緊急時に対応できるよう、半径60km以内が保安エリアとして割り当てられているのです。

つまり、事業所から半径60km以内は、その事業者に割り当てられた商圏と考えられます。これより離れると保安維持が困難になるため、新規顧客の開拓が困難になるのです。

また、商材の特性から見ても新規事業に繋げることが難しく、経営に関しての閉塞感を感じる事業者も少なくありません。

こうした中でも、M&Aを行えば商圏の拡大が見込めます。M&Aによって他社を譲り受けることで、他の事業所が保有している顧客基盤を獲得できるため、そのまま商圏が拡大すると考えられるのです。

LPガス販売事業者なるほど、今抱えている業界全体の課題が、M&Aによって解決されつつあるんだね

編集部おっしゃる通りです。
ただ、課題を解決するためには、前提としてM&Aが成功する必要があります。
望まない形で企業を手放しても、お互いに損をしてしまいますからね

LPガス販売事業者そうはいっても、M&Aを成功させる方法なんて知らないからなぁ…

編集部大丈夫です。
まずは業界内でのM&Aの事例を通して、M&Aのイメージを掴んでいきましょう。
自社の状況と照らし合わせてみることが大切です

LPガス販売事業者あまり難しく書かないでくれよ?

編集部おまかせください!

同業種同士でのLPガス業界 M&A事例

東邦ガスとヤマサのM&A事例

2018年の12月、愛知県の東邦ガスがヤマサホールディングスの子会社であるヤマサの全株式を取得し、完全子会社化に成功しています。

もともと都市ガス・LPガスの販売や供給を行っていた東邦ガスですが、主力事業である都市ガス事業に加えてLPガスの商圏拡大を狙ってヤマサを獲得したと見られます。

ヤマサはLPガス事業において8万件弱の契約を保有しており、今回のM&Aによって、東邦ガスはLPガス販売量を1割程度増加させています。

静岡ガスと島田ガスのM&A事例

2018年3月には、静岡県中東部を中心にLPガス事業を展開する静岡ガスが、静岡県島田市にLPガスの商権を展開する島田ガスを子会社化しています。

静岡ガスは都市ガスの販売量全国4位を誇り、他にもLPガス事業やリフォーム事業を展開していました。今回のM&Aを通して、静岡ガスはさらに静岡県下でのLPガスシェアを伸ばしていくでしょう。

また、天然ガスの卸先であった島田ガスの獲得によって、さらなる技術力の向上や、天然ガスのシェア拡大も見込めます。同業種のM&Aで得られるメリットが明確にわかる好事例と言えるでしょう。

カメイと最上ガスのM&A事例

2019年には宮城県に籍を置くカメイ株式会社が、山形県の最上ガス株式会社の全株式を取得し、子会社化に成功しています。

カメイ株式会社は6つの事業部を展開しており、そのうちの一つであるホーム事業にはガス販売が組み込まれていました。そこで、山形県新庄市を中心にLPガスや灯油類の販売を行っている最上ガス株式会社を譲り受けし、ガス事業のさらなる強化に努めようというのが本M&Aの意図と言えます。

自社のガス事業をさらに強化するためにM&Aに踏み切った好事例と言えるでしょう。

参考:最上ガス株式会社の株式取得に関するお知らせ│カメイ株式会社

関西電力と岩谷産業株式会社が共同で新法人を設立


2016年には、関西電力が岩谷産業株式会社の100%子会社であるイワタニ近畿と提携し「関電ガスサポート」という新法人を設立しています。大阪を拠点に産業・家庭用ガス供給を行う岩谷産業と共に、LPガス領域で新たな需要の創出に乗り出しました。

設立した関電ガスサポートでは、関電ガスの販路拡大や機器の修理、買い替えなどを主力としつつ、同社のLPガスの卸先であるマルヰ会やその他のLPガス販売業者との提携を拡大し、商圏の拡大にも注力していくとしています。

こうした業界大手同士の提携や吸収合併の波はさらに増大していくと見られ、LPガスの小売業者にとっても需要が増加する兆しとなるでしょう。

参考:「関電ガスサポート株式会社」の設立について│関西電力

異業種のLPガス業界 M&A事例

ここからは、LPガス販売会社と異業種の企業の間で行われたM&A事例について、詳しく解説していきます。

西部ガスとエストラストの異業種M&A


2017年、西部ガスは九州や山口で不動産業を展開する株式会社エストラストの株式を51%取得し、子会社化に成功しています。

このM&Aは、異業種であるエストラストを吸収することで、シナジー効果を獲得することが狙いです。LPガス業界は住宅があって初めて需要が生まれるため、不動産業界とは非常に相性がよいと考えられます。

また、同年のガス自由化は西部ガスにとっては競合の増加を意味していました。ライバル関係にある九州電力が家庭向けのガス販売に乗り出すことを受けて、成長戦略の一環としてM&Aに踏み切ったと考えられます。

西部ガスのメイン顧客は戸建て住宅。一方のエストラストはマンションの販売を主力としているため、リーチできなかった客層に踏み込めるメリットも得られます。

また、エストラスト側から見ても資金力の点から大規模なマンションの開発には着手できずにいましたが、西部ガスの傘下に入ることでより大規模なマンションの開発が可能になりました。両社にとってメリットの大きいM&Aだったと言えるでしょう。

参考:ガスと不動産、相乗効果 西部ガスがエストラスト買収発表│日本経済新聞

LPガス販売業界でM&Aを行う際に気をつけたいポイント

LPガス販売事業者LPガス業界でもM&Aは盛んに行われているんだなぁ。
実際に取り組む際に注意すべきポイントとか、覚えておかなきゃいけないことってあるのかな?

編集部LPガス業界ならではの慣習や考え方に注意しておく必要はありそうですね。ひとつずつ見ていきましょう

譲渡価格は扱っている戸数や資産によって異なる

M&Aの譲渡価格は営業利益や保有している資産をベースに計算されますが、LPガス販売事業者の場合は資産と管理戸数をベースに譲渡価格を計算します。
アパートや戸建て、住宅か商業用かなど、建物の種類によっても価格は変動しますし、譲り受けを希望する買い手の企業価値に対する考え方の違いによっても変動します。
また、先述した事例の中にもあるように、異業種とのシナジー効果を期待したM&Aの場合は、自社の従業員や顧客情報などの見えない資産が評価されて、「のれん」という付加価値が計上されることもあります。

1社ごとに状況はことなるため、LPガス業界のM&Aに詳しいM&Aコンサルタントや公認会計士に相談をすることが、現在の相場観を知るもっとも優れた方法と言えます。

取引先との関係性は変更されないことが多い

小売業者がM&Aによって大手卸売企業の傘下に入った場合、他の業種であればその卸売業者からのみ仕入れるケースも多く存在しますが、LPガス業界においては仕入れ先が変更されないケースが多いです。

これにはガスという商材の特性が絡んでいます。親会社が一手に卸しを請け負うと、子会社にガスを供給するために充てん所や配送網を拡充しなければならず、コストがかかってしまうのです。

そのため、既存の仕入れ状況のまま運営するのがよいと判断されるケースが多く、譲渡企業からみると、取引先との関係に影響を与えないままM&Aを進められます。

商権譲渡という考え方も検討する

LPガス業界のM&Aでは「商権譲渡」という手法もよく登場します。いわゆる営業権の譲渡や事業譲渡と同じ考え方です。

この場合も譲渡価格のベースとなるのは管理戸数です。1戸あたり十数万円が相場となりますが、こちらも建物の種類によって変動するため、目安としてとどめておきましょう。

M&Aを取り入れて厳しい競争に打ち勝つ戦略を

LPガス販売事業者業界を取り巻く状況や、打破するための手がかりが分かったよ。ありがとう

編集部お役に立てたようで何よりです。
M&Aは奥が深く、セオリーはあれど絶対に上手くいくという方策はありません。
企業の状態によって様々な手法を応用していくことになるので、まずは今の状況について、ぜひ弊社へご相談ください


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